バーに馴染みのない女性が、ひとりで行くとなると、覚悟が必要です。それ以前に「ひとりじゃ、行けない」という気持ちのほうが強いでしょう。お友達とふたりで行けば、はじめてでもなんとかなるかもしれませんが、お互いバー体験が浅いとやはり冒険心を燃やさなくてはならないはずです。
バー空間に慣れないうちは、構えず、気取らず、そのままの自分でいることは難しいでしょうが、そういうお客様に対してはバーテンダーも緊張しているそうです。だから正直にバー経験が浅いことを伝えることが大切なようです。
東京・渋谷「BAR Adonis」のバーテンダー、鈴木健司さんはこうおっしゃいます。
「はじめてのお客様には、心地よい時間を過ごしていただいて、自分の店を気に入っていただきたい。そのため、わたし自身も緊張します。波長が合わなければ、次の来店はないと思わなくてはいけません」
お見合いのようなものかもしれません。でも客の立場からすれば、カウンター席に座り、いきなりバーテンダーというお酒のプロを前にして、どう過ごせばよいのか戸惑いがあります。
すると、「こういうこころの持ちようにしてみては、いかがでしょうか」と鈴木さんは、ひとつの指針をくださいました。
「ファッション感覚、ライブ感覚でバーをお使いください。ショッピングを愉しんでいるような気持ちなっていただけたら。たとえばアクセサリー・ショップや雑貨店、あるいはブティックを訪ねるような気持ちです」
バックバーの棚にはいろんなお酒のボトルが並んでいます。1本1本異なるラベルの表情を眺めてみましょう。またはグラス。ウイスキーでも、カクテルでも、飲み方のスタイルでお酒が満たされるグラスの大きさや形状はさまざまです。他にもシェーカーやミキシンググラス、バースプーンなどいろいろな表情を持つ器具がたくさんあるのがバーです。
それらのバー・ツールを操り、グラスにおいしいお酒が注がれ、自分の手元にそのグラスが置かれるまでのバーテンダーの一連の動きは、とても美しい所作です。これこそ非日常のライブを愉しむ感覚ではないでしょうか。
鈴木さんは、「目で愉しんでいただいたり、シェークの音を聞いていただいたりしながら気持ちをほぐしていただければ、そこから会話が生まれ、よりリラックスできるのではないでしょうか」とおっしゃいます。
ひと言、「素敵なグラスですね」とか「このカクテルは、こういうグラスで味わうものなんですか」と投げかければ、徐々に寛いでいけるはずです。
鈴木さんはあまりお酒を嗜んだことがない女性客にはアルコール度数の低い、柔らかい口当りのカクテルをすすめていらっしゃいます。
「その方の好みの味わいをお聞きしてからおつくりしています。そうですね、スプモーニやホーセズネックあたりをおすすめすることが多いですかね」
タンブラーをはじめとした丈の高いグラスで供されるロング・カクテルの優しい味わいで、まずは舌や胃にアルコールの免疫をつくるようにする、これがバーテンダーの心遣いなのでしょう。
「Adonis」は渋谷のBunkamura(東急文化村)にほど近い場所、東急百貨店本店と文化村通りをはさんだ対面にあたる、居酒屋をはじめ飲食店が各階に入ったビルの9階にあります。はじめて訪ねると、ほんとうにスタンダードなバーがあるのだろうか、とためらわれるかもしれません。また渋谷は若者の街といった印象もあります。
でもエレベーターが9階に止まり、扉が開くと、渋谷の喧噪からはかけ離れた、Gentle Breeze(優しいそよかぜ風)を感じさせるしなやかで落ち着いたバー空間が広がっています。このギャップもバーの醍醐味のひとつかもしれません。
白を基調とした店内。カウンターも珍しい白。大理石です。『エーゲ海の風』をコンセプトにした内装ですが、カウンターは癒しの白い珊瑚礁、寛ぎの白砂の浜辺なのかもしれません。ここに老若男女さまざまな方たちが憩い、皆一様においしいお酒をゆったりと味わっていらっしゃいます。
「Adonis」だけでなく、渋谷には素敵なスタンダードなバーがたくさんあります。
BAR-NAVI検索からあなたが惹かれたバーへ、是非一度訪ねてみてください。
尚、BAR Adonis鈴木健司さんには、8月末からのSeries 2に再登場いただきます。